大
標準

検索条件

商品カテゴリから選ぶ
商品名か商品コード入力

TopPage >園芸名著のご紹介 >共生生命体の30億年

共生生命体の30億年

共生生命体の30億年

共生生命体の30億年

リン・マーギュリス、中村桂子 訳(1800円)
草思社(2000)


本書の読みどころ

本書は「共生」という異なる生物同士の関わり合いが大きなテーマになっています。共生説そのものの話だけでなく、共生説に基づく進化論、共生説とガイア理論を関連付けた論述など、リン・マーギュリス独自の主張が展開されます。本書を読めば、生物や地球上の現象を「共生」ととらえる大きな視点が開けてきます。
また、行間に現れる「共生説」という生物学に大きな影響を与えた偉大な研究者の人間性にも興味を惹かれます。
本書の文章構成には読みづらいところがありますが、時間をかけてじっくり読み込む価値があります。


『共生』こそが、生命進化のスタートであったという仮説

細胞内小器官であるミトコンドリアや葉緑体は、元々はそれぞれ独立した生物でした。それらが共生し細胞を形成するに至った、という考え方を「共生説」といい、本書の著者であるリン・マーギュリスが初めて提唱しました。 本書では著者の生い立ちを交えながら、細胞内共生から始まり、共生により新たな種が生まれ生物が進化していったという内容を説き、最後にはガイアという概念に共生を関係づけるような論述を展開しています。以下、章を追って要点をまとめてみました。


①共生はいたるところに

共生とは、異なる種に属する生物同士が物理的に接触して生活するシステム、と定義されます。
難しい専門用語のように聞こえるかもしれませんが、「共生」は環境中のあらゆるところで見ることができます。共生関係の例を挙げると、マメ科植物の根に丸い塊を作る共生する窒素固定細菌が植物に窒素分を供給していることや、光合成藻類を体内に共生させるウズムシの一種が光合成産物を宿主に提供していることなど、
共生は革新的な進化や種の起源を理解するうえできわめて重要なワードと言えます。


②正統に逆らう 共生に至るまでの道筋

この章では、著者の中高生時代や、大学・大学院で研究に目覚めるまで、そして「連続細胞内共生説」を発表するまでの流れが記されています。 彼女がまだ学生であったとき、「核内に存在する遺伝子が動植物の形質をすべて決定している」という考えが広く普及していました。しかし、この考え方はあまりにすっきりしすぎていて、極端すぎるのでは?と疑問を呈しました。そして科学者たちは核に焦点を合わせすぎて必要以上に視野を狭くしていると気づいたことが彼女の研究の出発点でもありました。
元々閉じ込められた細菌であった色素体には、細菌由来のDNAが含まれているに違いないと予測し、研究を行い「有糸分裂細胞の起源」という論文を発表しました。ここから「連続細胞内共生説:Serial Endosymbiosis Theory(SET)」という言葉が誕生します。


③取り込みにより生じる個体

本章ではSETが主張する細胞共生までの流れを解説し、それを裏付ける根拠について述べています。 まず、硫黄や高熱を好む細菌(古細菌と呼ばれる)が遊走性の細菌と一体化し、動植物の祖先細胞の基本となる核を含む細胞質を構成しました。これをここで遊走性プロチストと呼んでいます。後に遊走性プロチストにある種の酸素呼吸細菌が組み込まれ、これが酸素呼吸能を持つ真核細胞となりました。また、この真核細胞が光合成細菌(シアノバクテリア)を取り込み、それがのちに植物の持つ葉緑体となりました。 これらをまとめて、SETは以下のような四つの内容を主張しています。

1:タンパク質を作る代謝の大半は高熱性細菌由来である。
2:繊毛は遊走性の細菌由来である。
3:ミトコンドリアは「紅色細菌」或いは「プロテオバクテリア」が共生してできたものである。
4:葉緑体やその他の色素はかつて光合成シアノバクテリアであったものである。

1、3、4については各オルガネラと細菌のDNAを比較する実験などにより同定されています。2については確たる証拠が存在していませんが、ミトコンドリアを持つ細胞には、必ず遊泳性の細菌である「スピロヘータ」の名残である微小管を持っているということから、著者は繊毛も共生により得られたものであると主張しています。
しかし、DNAやタンパク質レベルでの解析がまだ進んでおらず、繊毛が共生由来なのかどうかはまだ研究が行われている段階です。


④ブドウの名前

著者の研究にも大きな影響を与えた分類学(生物を同定、命名、分類する科学であると定義されています)について述べています。生物の分類は多くの研究者が試みてきましたが、未だ混乱を極めています。

リンネの二名法を使用していたころは生物を「動物」「植物」と大別することが一般的でした。しかし、20世紀になってからロバート・H・ホイタッカーによって五界分類(「菌界」「植物界」「動物界」「プロトクチスト界」「モネラ界」に分類)が確立されました。著者は、多少の修正を加えつつも基本的にこの五界分類を支持しています。それはこの分類法が、著者の考える以下のような共生説の流れを忠実に反映しているためです。

(1)細菌が進化し様々に分岐した→
(2)細菌は多様化しただけでなく細菌同士の内部に侵入して住みつくようになり、そうしているうちに別々の個体であった細菌同士が合体して新種の複雑な細胞となった→
(3)そこから種分化が始まり、これらの複合体がプロトクチストとなった→
(4)このプロトクチストからやがて有性生殖を行う植物や動物が進化していった。

最も新しい分類体系の研究だと、カール・R・ウーズの提唱する3ドメイン分類法があります。これは教科書にも採択されている分類法で、かなり一般的になりつつあります。しかし著者は、3ドメイン法がプロトクチストを動植物と同じドメインに位置付けている点や環境の変化で配列が変わることのあるリボソームRNAを用いて分類しているという点から、この分類法に異議を唱えています。

多くの説が提唱されている分類法ですが、未だどれも問題を抱えています。著者の支持する二層五界分類も今後見直していく必要があるでしょう。


⑤浮きかすから生まれた生命

細菌でも真核生物でも生命の単位は細胞であり、最初の真核細胞は細菌の合体によりできました。今日発見されている最古の細菌の化石は、スワジランド・ミクロスフェアと呼ばれる微化石であり、35億年以上前の化石であると考えられており、この頃に最初の生命が誕生したということができます。
では最初の細菌細胞はどのようにして生まれたのでしょうか?
生命の起源に関する実験は二十世紀後半から行われています。これらの実験から、原始の地球環境を作れば生命の前駆体(必須アミノ酸など)ができることが明らかになっています。これが細胞内小器官の元となりました。
全ての生物が細胞内に持つ液体で満たされた腔があり、これに似た構造の「リポソーム」という袋があります。これは膜から成る小胞で上記と類似した生命起源の実験で自然発生的に出現します。これが細胞の膜の元となりました。
細胞内小器官の元となるものと、外界から隔てる脂質性の膜との相互作用によって原始の細胞が生まれたのです。


⑥受け継がれてきた性

動物や植物の生活環は精子の核と卵子の核の融合が出発点となります。これには「性」が欠かせません。そして著者は、この互いに惹かれあう生物の合体である「性」の始まりは、おそらく共生であっただろう、と論じています。

まず「性」が存在することにより起きる「受精」の起源について迫ります。
ここで重要となるのがハーバード大学のクリーヴランドによる研究例です。飢餓状態に陥ったある種の繊毛虫が近くの仲間を飲み込んだが、消化不良により飲み込んだ仲間の核と染色体をそのまま残し、結果的に二組の染色体を持つ合体細胞が形成される、という事象が発生しました。この結果から、「減数分裂を伴う性は、プロトクチスト同士の共食いとその消化不良の結果起きた」という説を提唱しました。

一方で、この受精を行うために起こる減数分裂(卵子及び精子を形成するために染色体数が半分の細胞を作り出す分裂様式)の起源について、著者は次のように考えています。
上記の染色体数を二倍するやり方は、環境の脅威に対する解決策として始まりました(ある厳しい環境にさらされたとき、仲間を飲み込み二組の染色体と二倍量の細胞質液を持つことにより、欠乏状態に耐えやすくなる、と考えられます)。しかし、二倍となった染色体は厳しい環境下では有利ですが、簡素で敏捷な一倍体の状態に戻ろうとしました。これが減数分裂の始まりと考えられています。

すなわち、私たちの体で起こる減数分裂や受精は、共生細菌が融合し変異したという事象を起源としているのです。共生が「性」の形成の根源であると考えられるでしょう。



⑦上陸

海の中で誕生し、進化した生命は後に地上へと上陸していきます。
多くの生物が上陸できるようになったことにも、共生が関係しています。ここでメインとなるのが植物と菌類の共生関係です。この関係は陸上で最初に起こった共生関係と言われています。
陸上への進出は、水生の藻類から植物への進化を意味します。陸で生き延びるには乾燥に耐え、栄養を得なければなりません。そのために植物と菌類が共生し、互いに補い合うという関係が生まれました。
(共生関係の例:植物の根には、根と菌類が一緒になってつくる菌根と呼ばれる塊があります。この両者が複合体を形成することにより、生命の居住に適さない乾燥した表層土にうまく対処できるようになりました。)
地球の硬い岩石は、上記のような菌類と植物の協力の結果、何億年という際月をかけて砕かれ、豊かな養分を持つ土壌となり、陸地は生物の生息に適した穏やかな環境となりました。そして、後に多くの生物が陸上進出し、多様性を広げてゆくこととなったのです。
本章を通して著者は、我々人間を含む生物は(上記のような)共生、相互作用、相互依存という歴史を歩んできたように、「他者」なしには生きられないのだということを論じています。


⑧ガイア

本書の最終章として、「ガイア」の考え方について著者の主張を展開しています。
ガイアは、「地球は一個の生物である」とする考え方が大衆的になっています。
著者はこの考え方に否定的する一方、ガイアを「絶えず新しい環境や生物を作り出している、互いに作用しあう生態系の巨大な集合体である」とする考えを主張しています。
ガイアのシステムは、ある生物の老廃物がほかの生物の養分となるという、地球規模での物質循環が行われています。自己の老廃物を養分とする生物は存在しないため、大衆化されたガイアを一個の「生物」と考えることは間違っていると述べています。
また地球の大気は、もし生物がいない状態だと、化学的・物理的に明らかに不安定な状態となり、恒常性を保つことが難しい構成になっています。しかし現状では維持されている状態にあります。このワケは、生物が気体を放出することにより、その量をコントロールしているからだと述べています。
これらのことから、生物同士や地球環境との「共生」がガイアを作り出していると言うことができるでしょう。

更に著者は、人類が地球を破壊したり救うことは可能だという考えに対し、「ガイアはタフで人間に脅かされることはない」と反発しています。
地球の生命は30億年の中で、5000個の核爆弾の爆発に匹敵するほどの衝撃などよる環境変化に何度も耐えてきました。ガイアは生態系の危機を構成要素に組み入れて、育て上げられてきたのです。そのため、地球上の生命維持システムにとっては、人間の影響力など大したことではないと言えます。
生きている地球に対して責任を取ろう、病んだ地球を癒そうとなどといった言葉をよく耳にしますが、正しくは人間が地球上から排除さぬよう、「私たちは私たち自身を私たちから守る必要がある」のではないでしょうか。